愛しの楽曲たち「黒い海」
- Miwa Yamaue
- 2015年4月20日
- 読了時間: 3分
沖縄公演が終わった。思いもよらないスタンディングオベーション。「来てくれて、ありがとう」「この作品をどうか全国で上演してください」うれしいお言葉をたくさんいただいた。子供たちの顔も輝いている。そんな旅の最後に訪れたのは、佐喜眞美術館だった。普天間基地に隣接した丘に建つこの美術館は、生と死、苦悩と救済、人間と戦争、といったテーマのアート作品が展示されている。「沖縄戦の図」の前で、うどいの子供たちが泣いている。顔をゆがめている。自分の腕をさすっている。でも、目を背けず観ている。この旅の終わりは、浮かれたりはしゃいだりでなく、「忘れてはいけない思い」を再び胸に焼き付け帰るのがいいだろうと選んだ場所。作品を観終わり、屋上に行く。
真夏の沖縄の青い空と青い海が見える。真ん中には空に伸びる階段がある。6月23日の沖縄慰霊の日には、その階段の先に日が沈むという。そして、その空を戦闘機が横切る。うまく表現できないが「心」がたくさんのことを感じているのがわかった。藍色の哀しみの世界から、夜が明け、青く眩しい光さす場所へ来たのに、ぽつぽつと「心」に降る「黒い雨」・・・といった心情だろか。案内してくださる職員さんが、語り始めた。「右側に海岸線が見えるでしょ。昭和20年4月1日、あの海岸からアメリカ軍が上陸してきたんです」聞いた瞬間に動けなくなった。そして、ラジオの周波数があったかのように、「こんなことになるなんて」という言葉が降ってきた。何が何だかわからないが、前にいたぎんさんに声を絞り出して言った。「写真、とっといて」
バスに乗っても、気持ちが抜け出せない。我に返ったのは、空港のロビーに置いてあった冷水器の水を飲んだ時だった。聞けば、あの場所は昔から海岸線が見える小高い丘だったという。沖縄の青い海が、黒い戦艦で埋まった日、あの丘からその風景をみた島の人たちはどんな気持ちだったんだろう。えらいことや…どえらいおみやげもらってしもた。大阪に帰り、そのことをよっつんに話した。イメージが湧き、曲はすぐにできたらしい。でも、次の「風声」では、する勇気がなかった。もう少し…もう少し熟してから、ぽたっと実が落ちるように世に出したいと思った。
そして今、あの旅で大きく成長してくれた卒業生たちが、今、パフォーマンスの演出も振り付けもしてくれる。実は熟した。詩はない。足の先から響いてくる重低音と忍び寄る無機質なかたまり、照明とのコラボ、魂をどこかに持って行かれないように、強い気持ちで、ゆるぎなき心で臨まねば。
あの旅がくれた思いを形にすること、怖くて避けていたけど、もう逃げない。「こんなことになるなんて」風の声がきこえたあの日を、そのまま舞台に持っていこう。
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